良い内製化とは?

ここ数年、IT企業に頼らずに自社でDX・システム化に取り組もうとする企業が増えています。いわゆる内製化と呼ばれている取り組みですが、どのような点に注意したら上手くいくのかをまとめてみました。

これから取り組もうとされている企業のご参考になれば幸いです。

内製化に取り組む背景

企業では失われた30年を取り戻すべく、新規事業の立ち上げや既存事業の効率化・省力化への取り組みが盛んです。

その土台としてDX/IT化は必須であり、IT人材の確保が困難な状況が続いています。

いわゆる2025年の崖(経産省DXレポート)ってやつですね。

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

これに関してはかなり以前から指摘されてきたことですし今さら何言ってんだという気もしていますが、AIやSaaS等の利用も増加して、2025年を過ぎても変わらずIT人材の不足が確実だとわかり、大きな問題に発展した印象です。

企業サイドからすると、いつまで待ったらIT企業が動いてくれるのか?、うちは取り残されるのでは?という危機感があります。

特に中堅企業や大企業でも大規模なIT投資を行わずに生き延びてきたところ、また現場部門で突然新規事業だDXだと言われたところなどでは、IT企業との接点もなく苦戦している印象です。

外部に頼れないなら自分たちで何とかしよう(=内製化)と考える企業が出てきました。

それ自体は間違いではありませんが、先に言っておくと、よほどの魅力付けができないと失敗すると思います。

内製化に適した業務領域は?

まず先にシステムの内製化といっても向き不向きがあるため、その点について少し触れておきます。

基幹業務でパッケージシステムを全面的に採用しているようなケースでは内製化は不要です。パッケージシステムの保守会社が対応します、当たり前ですが。
同じく基幹業務で長年IT企業にお任せでスクラッチ開発で構築してきたケースでも内製化は困難です。

基幹システムは膨大な費用が掛かるためコストダウンしたい(=内製化)という誘惑に駆られるかも知れませんが、システム刷新(入れ替え)をしないかぎり、この領域のコストダウンは不可能に近いでしょう。非常に難易度が高い領域です。

内製化を進めるのであれば、ネット事業や会員・加盟店向けサービス、自社内でも顧客接点に近い営業支援などが向いていると思います。仕様が外部からわかりやすく変更前・変更後のイメージが持ちやすいためです。

また、競合とも比較されやすく、ビジネスの優位性確保のためにもクイックな見直しが求められています。いわゆるアジャイル開発で対応するような領域ですね。

あとは、AIの活用・定着化も内製化に向いていると思います。

効果を見極めるために時間がかかることや、新たなデータ・マスタの整備等が必要なので、企業側で対応することが多くなります。
それなら最初から長期で携われる社内の人材で対応しておきたい、となりますね。

内製化を行うにあたっての最大の障壁とは?

一企業の立場で言えば、障壁はIT人材に適した組織デザインや処遇(給与テーブルやキャリアパス)をきちんと設ける必要があるということです。

確実に従来の給与体系とは合いませんし、なんならカルチャーも合わないということで子会社化するケースが非常に多いです。

しかしながら、子会社でどこまで本体やグループ会社に影響力を発揮できるのか?というと、なかなか難しいのではないでしょうか。

子会社のトップが本体役員と兼務している、よほどの実力者を外部から招聘して誰も口出しさせないようにしているような場合であれ、立ち上げ当初は上手くいっても5~10年経つと維持できないケース維持できないケースが多く見られます。

ちなみに、大昔”電算室のプロフィットセンター化”という名目で子会社化ブームが起きたことがありました。やがて崩壊したことを知っているので個人的には子会社化はあまりお勧めできません。上手くいったケースは数%だったと記憶しています。

以前グループ会社を多数持つ大企業から相談を受けたときも、様々な事例やパターンを検討した上で、結局本体のIT組織を強化して内製化を進める形を提言しました。時間も労力も掛かりましたが、振り返るとその形がベストだったとおっしゃって頂きました。

ところで、上で”一企業の立場で”と書きましたが、日本における内製化の最大の障壁は、雇用の流動性が低いことに尽きます。他業種に比べると流動性が高いIT業界とはいえ、大手にいる数万人の優秀なIT人材は大規模なリストラが起きない限り出てきません。また組織に留まらず活躍している一部の実力者は魅力的なテーマやプロジェクトを求めて移動(転職)することが当たり前なので、繋ぎ止めておくのも容易ではありません。

”アメリカでは事業会社にIT人材が多くいて内製化が進むのに・・・”という話をよく聞きますが、終身雇用を前提とした日本の雇用環境を変えないかぎり同レベルにはなりません。

良い内製化とは?

内製化を進めるにあたっては、採用したIT人材が活躍ができる場(組織、処遇、キャリアパス)を用意すること、自社の業務を学ぶだけでなく、新しい技術を習得する機会やトライ&エラーを許容できるような仕組み作りが欠かせません。

特にエンジニアの人にとっては、”技術者として活躍する場が本当にあるのか?”、”それは内製化でしか実現できないことなのか?”、”(気が変わって)放り出されたりしないか”、”古い技術しか携われなかったらどうしよう?”、あたりは非常に気になると思います。

それらに応えつつ、持続性のある取り組みにできる企業だけが内製化を選択しても良いのだと考えます。

どのようにすれば中長期的に発展できる良い内製化を育むことができるのか?については、また機会があれば掘り下げて書いてみようと思います。